⭐ちょっと一服 その3 ジェイ先生の後日談 ③
そんなある日。その日は「坂道発進の授業」だということで授業開始からすぐにロスの北に位置する山の方まで行き、ある程度登っていった平地で授業を行ったようです。ある程度、平地まで上がってくるとジェイ先生は家内に車を道路わきに寄せるように指示しました。ここまで、その日の授業が始まってからおよそ20分位です。ジェイ先生は車が止まるとエンジンを切るように言いました。
車がしっかりと止まった状態で「坂道発進」の際の足の使い方の講義を始めてくれたそうです。その日は言葉を荒げることもなく、極々普通に説明をしてくれて、とても分かりやすく教えてくれたようです。エンジンが停止した状態での足の運び方の授業の後は、エンジンをスタートさせて実際に車を動かしながら「坂道発進をしてみましょう」ということになったそうです。
「ミセス・タカオカ、それではエンジンを入れて!実際にこの坂をうまく使って『坂道発進』を実践してみましょう。」
家内は普通にエンジンキーを回しました。すると「ぶるるん」というはずのエンジンがうんともすんとも言いません。もう一度、エンジンキーを入れ直してみましたが、やはり反応がありません。
「ミセス・タカオカ、何をしているんですか?ちゃんとエンジンを入れてください。」
家内はその後、何度もエンジンキーを回してみたのですが、やはり反応がなく、まったくエンジンがかかりません。ジェイ先生は「何をしているんですか、エンジンをかけるのは基本中の基本ですよ、ミセス・タカオカ。」とまた機嫌が悪くなり始めているようでした。
「エンジンくらい入れられないでどうするんですか?本当にもう。ミセス・タカオカ、席を変わってください!」いらいらが募りだしたジェイ先生は、家内と席を変わりざまにキーを受け取ると、席に着くや勢いよく自らエンジンの鍵入れにキー入れるや、力いっぱい回しました。しかし、エンジンはやっぱり動きません。「うん、うん。う~ん」と溜め息をつくと席に深く座り直して、腕組を一度して、いぶかしげに顔を傾けながら再びエンジンをかけてみたのですが、エンジンはまったく反応せずです。ジェイ先生、ぽつりとひと事。
「だめだ、壊れてる。そうだと思ったんだ。」
それを聞いて家内は心の中で怒りが爆発!「そうだと思ったんだ?何言ってんのよ! さっきまでエンジンは基本だとか言ってて。あんたが持ってきた車でしょ。何のためにこんな山の上まで来たのかしら?今日の2時間の授業は始まったばかりなのに。どうなるのかしら、この後?」と思ったそうですが、先日、やり抜くと決めたのでここはもちろん、何も反抗せず、何も言わずにただ黙っていたようです。
するとジェイ先生、どこからかおもむろに、でっかい黒い携帯電話を取り出してドライビングスクールのオフィスに連絡を取り始めました。
なにやらスタッフの人と話しをしており、結局のところ、ドライビングスクールがレッカー車を手配して、その到着を待つことになったそうです。その間、ふたりはただひたすらにレッカー車が来るのを待つことになったそうです。ジェイ先生は車の外でタバコを吸ったり、ドデカイ携帯電話で誰かと話をしていたそうですが、家内は車の中で一人、レッカー車が来るのを30分位、じっと待っていたそうです。「もうイヤだ!」というその時の家内の気持ち、容易に想像出来ます。レッカー車がやってきて、ようやく帰れることになったわけですが、今朝出かける時に帰りはレッカー車の運転席に乗って帰ってくることになるとは思ってもみなかったと言っていました。
帰りのレッカー車でジェイ先生が「ミセス・タカオカ。今日は本当にごめんなさい。今日の授業料はいりませんので。」と言ってきたそうで「はい分かりました。」と家内は答えたそうですが、心の中では「当たり前だろう!」と思っていたそうです。
なんだかんだと言いながらも、その後もジェイ先生の授業は連日のように続いていき、日数的には確かに私よりもかかってはいましたが次回はいよいよ「フリーウェイ教習」が出来るレベルにまでなってきたのでした。
「フリーウェイ教習」の当日。怖い怖いとは言いながらも「頑張ってくる」と言って勇んで出かけるまでになってくれたことは本当にありがたいことでした。
その日は天気もよくフリーウェイ教習をするには最適な日でした。
さてさて、その日、私は一日、自分の仕事をして定時に帰宅の途についた訳ですが、帰る途中、家内のフリーウェイ教習はどうだったのかとても心配でした。やはりあまりの怖さでまたゲッソリしているのではないか、はたまた半べそをかきながら、また「止めたい」と言い出しはしないか。
「ただいま」と帰宅してみると、家内はごくごく普通に晩御飯を作って待ってくれていました。「で、どうだった?フリーウェイの教習は?」と聞いてみると「うん、うまくいったよ、もうすぐ試験の時に走るコースの練習をする最終段階に入る。」って言ってた と こちらが気抜けするぐらいあっさりと言うのです。
手洗い、うがい、着替えを済ませて、食卓に向かって、更にフリーウェイでの教習の模様を尋ねてみました。すると「もう天気が良すぎて暑くてね、ま、冷房が効いてからいいんだけど、それよりも日差しが強くてまいったわよ~」と全然運転に関係のないことばかり話してきて、「まっすぐにしか走れなかったけど、スピードを出して走るのって楽しいわね。」とあっさりとしたもんです。私の時は私がもっと怖がっていましたから。
案の定、私同様、ひたすらまっすぐに走り続けていったのだそうです。私の場合は、フリーウェイの405号をサンディエゴ方面にずんずんずんずんとただひたすらに南下していったのを覚えていますが、今日の家内のコースはまた別のようでした。
やはりフリーウェイに乗ると、車線変更などはせずに、ただひたすらに真っ直ぐにずんずんずんずんと走っていったのだそうです。私の時と同様、ジェイ先生の無言の時間が結構続いていたようです。確かにドライブ日和ではありましたが。
とにかくどんどんロスの中心から離れていき廻りの景色が拓けてきて山というか、自然が溢れている中を調子よく走れてとても気持ちが良かったのだそうです。1時間以上走ったあたりで左手に大きなジェットコースターのある遊園地が見えてきたそうです。ジェイ先生曰く「この遊園地、マジックマウンテンですよ、今日は行きませんが・・。」とぽつりと言ったそうです。「えぇっ、マジックマウンテン?初めてなのにそんな遠くまで行ったのかぁ!!」と私は驚きました。そりゃ、運転に慣れている人ならスイスイスイと「シックスフラッグス・マジック・マウンテン」まで楽に行けるかもしれませんが、初めてのフリーウェイ運転なのにいきなりロスから50キロ以上は離れている「マジックマウンテン」まで行ってしまうとは、さすがはジェイ先生です。家内はマジック・マウンテンがどこにあるのなど皆目分からなかった筈です。ただ先生の指示に従って真っ直ぐ走りつづけていただけでしょうから。するとジェイ先生から「あなたは一体、どこまで行く気なんですか?」と言われたそうです。 恐るべしジェイ先生!
家内はまたもや心の中で「あんたがどんどん走れ!って言ったんだろが」と怒鳴っていたようです。しかし、冷静に運転に集中しようと考え、怒りを鎮めてハンドルを握り、帰りもただひたすらに真っ直ぐに走って帰ってきたのでしょうが、本当の所、どうやって帰ってきたのか覚えていないそうです。
※「ちょっと一服」は、これにて終了。次回は本線に戻って「銃社会」について書かせて頂きます!!