第2章 たまげた町だ、ロサンゼルス!
1.ロサンゼルス暴動の眠れぬ夜
1992年4月29日。ロサンゼルスへ到着してからおよそ1ケ月半が過ぎようとしていたその日。たまげた事態に遭遇してしまいました。日本から送った荷物の段ボール箱のまだ半分近くが手つかずのままだというのに・・・・。
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先輩駐在員一家が帰国してしまい、ロサンゼルス支社での仕事は自分一人でこなさなくてはならない状況の中、町の生活に一日も早く慣れなければと思い、とにかく町中の通りの名前を覚えることから始まり、スーパーマーケットや郵便局といった生活する上で大切な店と施設の場所はとにかく先に頭に入れておきたいと思い、その時期は町の地図と毎日にらめっこをしながらまだまだ慣れない車の運転ではありましたが町中を走り回っておりました。
まだまだ慣れないことばかりだというのに、我々夫婦を とんでもない出来事が待ち受けておりました!!
その日は、朝から覚えたばかりの経理の仕事を一日中しており、残業をして事務所を出たのが夜の8時近く。物凄く腹が減っていたのを覚えています。パーク・ラブレアの駐車場に車を停めて家に帰宅すると、すでに夕飯を済ませてリビングでテレビのニュースを見ていた家内が開口一番「どこかで大火事みたいよ。」と言ってきました。確かにテレビを見ると画面いっぱいに町のビルから大きな火の手があがっている様子が映しだされていました。
「この大火事は、どこの州のどの街の光景なのだろうか?」と思いながら、スーツから部屋着に着替えて、手洗い・うがいを済ませて、再びテレビの前に戻ってくると大きな建物が物凄い炎に包まれて黒煙をもくもくと上げていて、聞こえてくるレポーターの声からもなんだかとんでもないことが起こっているような雰囲気が伝わってきました。テレビに映るその街並みは、どうもロサンゼルスに似ており、この炎上しているビルやその一帯の様子は市内のどこか、どうもダウンタウン方面のようにも見えました。
夜の街に燃え上がる炎と物凄い勢いで天に舞い上がっていく黒煙。その様子を上空にやって来たヘリコプターがゆっくりと旋回しながら映像を克明に伝え出しました。ヘリのカメラは現場に到着しはじめた消防車と迅速に消火作業に動き出した消防隊員達の様子を追っており、彼らが構えているホースから出る水の量は、どう見ても燃え盛る炎に比べて小さすぎるものでした。これでは消火作業はかなり難航するだろうと素人の私にもすぐ分かりました。この建物が燃え盛る様子を捉えているカメラのヘリが更に高度を上げていきカメラがもっと広範囲にロサンゼルスの町全体を映しだした時、私はその光景に我れと我が目を疑いました。
何故ならば、広範囲に引いた映像に映し出されたロサンゼルスの夜の町のあちらこちらから火の手が上がっており、上空に上がっていくその黒い筋は一つではなく何本もあってそれが空に到達してロスの町を黒く染め始めていたからです!
さすがにこの光景をみた時には「これはただ事ではない。」と直感しました。慌ててテレビのチャンネルを手当たり次第に回してみると、ケーブルの専門チャンネル以外は、どのチャンネルも緊急事態を伝えるニュース番組をこぞって放送し始めていました。画面には大きく「RIOT」の文字が写しだされていました。スタジオのキャスターたち、現地に繰り出し始めたレポーターたちが現地での様子を緊迫した様子で伝えだした頃、パーク・ラブレアの横の通りも消防車が警笛を鳴らしながらダウンタウン方面に走り抜けていく音が聞こえました。
チャンネルをひねるとどのテレビ局も「RIOT」(ライオット)だと伝えていました。その時、この単語の意味が分からなかったので、慌てて自分の部屋へ行き、まだ開け切っていない段ボール箱の中から英語の辞書を探しだし、この単語「RIOT」(ライオット)を引いてみると、そこには「暴動」という意味が書かれていました。「これってもしかすると、とんでもない事が起こっているのかもしれない。」
リビングに戻って、家内に「RIOTの意味は暴動だって。どうもこの町で暴動が起こってしまったらしい。」と伝えましたが彼女は何が何だか分からずにただキョトンとしていました。
あれだけ腹が減っていた事もどこへやら、目の前に起こっている異様な事態を伝えるテレビの画面に釘付けとなり
「どうしてこういう事になってしまっているのか?一体、何がどうなっているのか?」
疑問の解決の糸口を掴もうといろいろなチャンネルを回しながら必死にキャスターの言っている内容に耳を傾けたのですがネイティブなキャスターが話す英語のスピードに追いついていけず事の真相を掴むのに四苦八苦の状態でした。(当時の私の英語力は実用英語検定準一級の一次試験を通過したレベル)
町の至るところで起きている火事の映像の合間合間に路上で4,5人の警察官が一人の黒人に殴る蹴るの暴行をしている過去の映像と昼間の交差点内で止められた赤い大きなトラックから肩くらいまで金髪を伸ばした白人男性ドライバーが運転席から引きづり下ろされて暴行を受けているシーンが放送され始めました。でも、どうしてこれらの映像が頻繁にカットインされてくるのか、その理由が分かりませんでした。
そうこうしているうちに我々の住むパーク・ラブレアのビルの上空にもヘリコプターがかなり高度を下げて二機、三機とけたたましいプロペラ音をさせながら騒々しく飛び交い、、近くの通りにはパトカーと消防車のサイレンの音が激しく響き渡りだしたので、妻もようやく事の重体さに気づいたらしく、その時はもうかなり険しい顔をしていました。つづく