目標に向かって進む中で、何の障害もなく、前進出来る「順境」な時には、自分という船に大きな帆を張ってを追い風をいっぱい受けてぐんぐんと前進し続けていけばよいのです。ただし、怪我/健康に十分気をつけて「集中力」を落とさないように心がけてください。
2021年の10月、横綱白鵬の引退が発表されました。
彼はモンゴルから15歳の時に他の6人の仲間と一緒に初めて日本にやってきました。そして、大阪にある「摂津倉庫」という実業団で2ケ月間、稽古をする機会がありました。
この稽古場には、さまざまな相撲部屋の親方たちが視察にきており、2ケ月間の稽古が済んだ後、3人がスカウトされてそれぞれの相撲部屋へ入門することになりました。その時、のちに白鵬となる少年を選ぶ親方は一人もいませんでした。それ故、彼はモンゴルへ帰国することになりました。モンゴルに帰る飛行機のチケットをもらい、両親への土産物も買ったのですが・・・。
帰国する前日・前夜、旭鷲山関が大島親方に、大島親方から宮城野親方に推薦する連絡が行き、急遽(運命的に)彼は日本に残り2000年12月下旬に宮城野部屋に入門することになったのです。ですからモンゴルには帰らずに大阪から東京に移ったのです。
そして、ここから21年間におよぶ相撲人生を過ごしていく事になるわけです。
2001年3月 初場所
2004年1月 新十両
2004年5月 新入幕
2005年1月 新三段
2006年5月 大関昇進
2007年7月場所 横綱昇進
18世紀後半以降、連勝の記録として連続で60勝を達成している力士は以下の3人しかいません。谷風(63連勝)、双葉山(69連勝)、そして白鵬(63連勝)!
相撲部屋に入ったすべての若者たちの「目標/夢」は「横綱」になることでしょう。
その夢への道は険しく、厳しく、本当に一握りの人しか叶えることが出来ません。ですが、厳しい闘いの末「横綱」になれたとしても、そこで終了ではないのです。そこから「横綱」は「横綱」としての挑戦の日々がスタートするのです。つまりは「引退」するその日までが己との闘いは続いていくのです。
2010年九州場所。双葉山の持つ69連勝に挑む場所を迎えました。その場所前、白鵬は62連勝中でした。そして、初日に栃ノ心に勝利して63勝となり谷風と肩を並べたのです。
その翌日、64連勝を目指して「稀勢の里」との大一番ににのぞみます。しかし、残念ながら白鵬は敗れてしまい、双葉山の69連勝越えの夢/目標は、そこで潰(つい)えてしまったのです。
敗れた白鵬はあとから以下のように敗因を述べています。
「考えさせられましたね。ちょっと、なめたっていうね。甘くみたっていうね。だからその『簡単に勝ちたい』っていう気持ちがあったんじゃないかな。自分がいい型になったから、勝つ型になったから、それだけに、安心感と、ちょっと気が抜けるところがあったんですね。」
横綱白鵬も人間です。連勝がストップしてしまったことへの落胆度はハンバではなかった筈です。双葉山は70連勝を逃した後、ショックからなのかその後の3取組を連続して落としてしまいます。しかしながら、白鵬はこの場所で優勝すれば5場所連続での「優勝」となることと、父親からの励ましの連絡もあり、次の日からまた勝ち続けていき、5場所連続での優勝を勝ち取ったのです。
人は失敗やミスをすると「どうしてあんな事をしてしまったのだろう」と悔恨の念に苛(さい)まれて、しばらくその失敗やミスが気持ちの中で尾を引いてしまいがちです。
数年前、全日本代表の女子バレーボールの試合を見ていると失点するとすると誰かれ問わずに「はい(気持ち)切り替えていこ~」という声がコートの中から、あるいは控えの選手の方から聞こえてきていました。バレーボールはテンポの速いスポーツですので失敗とミスを気にしていると次のプレーにまで影響してしまいます。これは卓球にも言える事だと思います。
そういった意味で連勝をストップさせてしまった直後の白鵬の気持ちを考えた場合「めちゃめちゃ」憂鬱であり、自分を責めることしきりだったに違いありません。ですが、彼は翌日から気持ちを切り替えて勝ち進んでいきます。
「敗れたという事実」をそっくりそのまま飲み込んでしまい、一度は折れてしまった心にすぐに添え木をして「負」で覆われていた気持ちを前向きに切り替えて前進する、 そのタフな精神力を是非とも見習わなくてはなりません!!
私が一流人になれないのは「失敗/ミス」があると「どうしてだよ?!」「えっ、おれが悪かったの?」などと自分が間違ったことを認めずに、どこかで人のせいにしたいというか、運がなかったことのせい、つまりは「悪いのは他の人、他の要因があったからだよ」と常に言い訳がましい心が起こり、それを押さえつけられないところにあるのだと思います。
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「逆境」という立場にいる訳ではなく、多少の怪我・痛みを抱えていることがあったとしても「順境」という人生状況にあった場合「目標/夢」を持っている人は、全力で挑み、その手を止めてはいけないのだと思います。
白鵬は「取組」で闘うことを「楽しむ」という表現は好ましくないと言っています。「取組」は「闘い」であってけっして「楽しむ」ものではないというのが白鵬の考えです。そのような考えを持っている白鵬という大横綱であっても連勝を続けていく中では「気が抜けて、甘い」気持ちに陥ることもあるのです。
だからこそ、アスリートだけでなく一般の人であっても自分なりの「目標/夢」を持っている人は、その「目標」に向かって気持ちを集中させて「一意専心」「一心不乱」に練習/修行/勉学/稽古に邁進し続け、蓄えたものを本番ですべて出し切る。出し切るまで「集中する心」を途切れさせてはいけないのです、きっと。これは苦しい孤独との闘いに違いありません。
「好きこそものの上手なれ!」という言葉もあります。横綱白鵬は言っています
「他の力士との違い?相撲が好きなことじゃないですかね。(周りを)見てると、そうじゃない力士もいる。『誰よりも相撲が好き』って言える自信、ありますね」と!
※上記の横綱白鵬の取組データや発言は、朝田武蔵(あさだむさし)氏著「白鵬伝」(文芸春秋)の記述内容を参考にさせて頂きました。