1.Oh! パサデナ! 独立記念日の花火大会よ (つづき)
さあ、いよいよ(1992年度の)ローズボウル花火の打ち上げが始ります。「隅田川花火のようにどんどん打ち上げてよ~、頼むよ~。」と心の中で声援を送った次の瞬間。「レディス アンド ジェントルマン」というアナウンサーの声が響きわたりました。観客全員が一斉に立ち上がりはじめました。
何事かと呆気に取られているとアメリカの国歌が流れ始めて、会場にいる全員が起立したままでの国歌斉唱です。なんと荘厳な風景であり歌声でしょう!日本人も国の大きなイベント等では「君が代」を斉唱しますがアメリカ人の斉唱と比べると基本的に声の大きさが違うのと、この会場には今4万人を越える人が集結しているので、その歌声の迫力にただただ日本人の我々は圧倒されておりました。斉唱後には会場全体から歓声と拍手が沸き起こり、ずしんと腹に響いてきました。そして1992年度の「ローズボウル花火大会の開始」が声高々に宣言されました。そして、場内の照明が一斉に落とされて場内は真っ暗となりました。
すると緑色のレーザービームが場内を駆け巡り出し始めました。そして、先程までバンド演奏が行われていたアリーナの舞台上に設置されている照明が少しづつ明るくなってきて、会場の四方八方に設置されている巨大なスピーカーから映画「2001年宇宙の旅」で使われていた「ツァラトゥストラはかく語りき」の音楽が聞こえてきました。音楽の盛り上がりとともに光の大きさがどんどんと強くなり、ティンパニ(ドラム)のドンデンドンデンドンデンド~ンという音とともにライトは点滅から光へと変わります。そして、曲が最高潮に達した時シンバルのバシーンと合わさる大きな音とともに場外から銀色に輝く強い光が一筋の白い線を残しながら上空に駆け上がっていき、それがドンという大低音とともに銀色の大輪の花火となりました。会場内はもう一挙に歓声と指笛の嵐となりました。会場内に今度は歌手ニール・ダイアモンドの「自由の国 アメリカ」という曲が聞こえてきました。会場全体が彼の歌声に包まれるともう全員が「居ても立っても居られない」という感じで総立ち状態となってきました。この曲も曲調に合わせてボンボン、ボンボンと花火がどんどん打ちあがっていきます。歌詞の中に「トウディ」というところがあり何回か繰り返されるのですが、そこはもう4万人の「トゥデイ」コールです。その光景を目の当たりにして、もう腕だけでなく体全体が鳥肌状態になりました。後ろのおにいちゃんの口笛が心地よいことと言ったらありません。会場の中の全員が全員、その素晴らしい花火を目で追いながら、体は会場に流れている曲に合わせて皆が皆、手拍子を打ってノリノリの状態です。「花火と音楽と観客」の見事なまでの融合です。花火の色合いは日本よりも紫やピンク系の色が多く使われていて色鮮やかで美しく、あまり期待していなかった分、新鮮でとても衝撃的でした。気がつくと私も巨大なスピーカーから聞こえてくる音楽に合わせて手拍子を打って音と光の中にすっかりと溶け込んでいました。
次に会場全体に鳴り響いたのは、あの「スターウォーズ」のテーマ曲のファンファーレでした。もうイントロのところの音が聞こえた時の観客同士の盛り上がりには凄いものがありました。指笛が会場のいたるところから聞こえています。目を前方の無観客のスペースに目を向けると「ダースベイダー」を型取った大きな仕掛け花火に火が入り、横には4つか5つの映画に出てくる「Xウイング」と言う戦闘機を型取った仕掛け花火にも火がついて何んともスローな追いかけっこが始りました。曲の終わりとともに花火の火が落ちるとまた会場全体が暗くなりました。
そして、アリーナの真ん中から真上に強いライトが一直線にぱっと伸びたかと思うと今度は「未知との遭遇」で使われていたあの5段階の音階が聞こえてきました。その音の変化に合わせて、その光線の色が変わりだしました。そして、曲が映画の中でUFOがゆっくりと飛行するシーンに使われていた曲に変わりました。次に目にした光景にただただ度肝を抜かれました。
何んと会場の上空にライトに照らされて楕円形の白く大きな「UFO」(大きな空気風船??)が出現してきたのです。しかけは会場の外に置かれている巨大なクレーン車が上からそのUFOを吊るしているのですが、ライトが強いのでクレーンで吊るしている仕掛けが見えづらくなっており、まるで本当に空中に浮いているかのように見えるのです。観客はこの大きな仕掛けを心の底から喜んでいて、その興奮ぶり・アゲアゲ度がずしずしと伝わってきました。
その後も観客たちに馴染み深い曲が数曲披露されて、おそらくコンピューターにより制御されていたのでしょうが、音楽に合わせて夜空に花火が打ち上げられていきます。色々な形の仕掛け花火がものの見事に光り輝いていました。
さてさてさて、そして、フィナーレに続いていく、この日の一番のクライマックスとなる出し物の出番となりました。ラストにかかった曲はヨハン・シュトラウス1世作曲による「ラデツキー行進曲」でありました。この曲をご存じの方はメロディーを口ずさんでみて下さい。曲の抑揚、強弱に合わせてまるで花火が躍っているかのように次から次へとポンポンポンとリズミカルに上空に花火が打ち上げられていくのです。右手の上空に勢いよくどんどん花火が打ち上げられているかと思うと、目の前の無人の会場に設置されていた6つの大きな風車型の仕掛け花火に点火がされて、その花火の風車が音楽の曲調に合わせてくるくると綺麗に回り始めました。興奮のるつぼと化している会場のすべての観客が総立ち状態で声も枯れんばかり歓声を上げています。これ以上のエンターテイメントはありません。もう歓声とうるさいばかりの指笛もただただ心地よいのです。さあ、いよいよ、フィナーレです。花火のこれでもかというくらいの乱れ打ちが始まりました。ドンバンドンという腹に響く低音とともに空が花火という花火で覆いつくされて溢れかえっています。そして、最後に、とどめという形で物凄く大きな花火が打ち上げられました。その花火がドーンと開いて落ちていく花火の銀と金の混ざりあった光の大きいこと!美しいこと!会場は拍手喝采のやんやんやの状態で、ただただ興奮オブ興奮でした。そして、およそ80分間に渡る華麗なる花火大会は幕を下ろしたのでございます。私は終わった後、しばらく言葉がありませんでした。「所変われば品変わる!」とは言いますが、音楽によって見事にショーアップされた「花火」というものがあることを知り、アメリカ人の「柔軟な発想」をもっともっと吸収しなければいけないと痛感した感動の夜でした!!
つづく