16.LAリターンズ⑧ 93年にサンタモニカの劇場で「となりのトトロ」を観ましたよ!
2020年2月に行われたアカデミー賞授賞式を席捲していたのは韓国のポン・ジュノ氏が監督した「パラサイト 半地下の家族」でした。英語以外の言語の作品がアカデミー賞の作品賞を受賞したのは初めてということだそうでアジア発信の作品が世界最高峰の賞で作品賞と監督賞を含む4部門で受賞出来たことは何んとも喜ばしいことなのではないでしょうか?
そして、つい最近、こちらも韓国の人気グループのお話しになりますがBTS(防弾少年団:Bang 防、Tan 弾、Sonyeondan 少年団)の「Dynamite」が全米ヒットチャートNO.1となりましたねぇ、それも2週連続です。
私、韓国の映画やドラマもよ~く見ているので、その辺りの話しもしたいのですが、それをするとロサンゼルス駐在生活体験記ではなくなってしまうので、いつか別に機会を作ってじっくりお話しさせてください。
エンタメの世界では韓国勢の勢いが絶好調の2020年ですが、私としてはやはり日本の作品のことをお話ししたいと思います。しかも1990年代前半のロサンゼルスでのお話しになりますので、それでは「時を戻しましょう、90年代へ」
時は1993年4月下旬のとある週末。場所はパーク・ラブレアの我が家です。うちは当時、新聞として「ロサンゼルスタイムズ」を購読していました。LAタイムズは、日曜版が一番分厚くて読みでがあり、経済・スポーツ・エンターテインメントといったジャンルごとに仕分けされていて、エンターテインメント、ロサンゼルスなので特に映画に関する特集記事やどの劇場で何をやっているのかという情報が事細かく掲載されていて、映画好きの私としては、LAタイムズ・日曜版のエンタメ特集のページに目を通すのが一つの楽しみとなっていました。90年代のロサンゼルスは「シネコン」の形態が基本広まっており、かなり定着している時代になってはいましたが、それでもアート系の作品を上映する劇場は劇場でしっかりと存在していて顧客もしっかりとついていて、劇場運営もしっかり出来ているという印象でした。さすがは映画の町、ロサンゼルスだと思ったものでした。
その日、いつものようにLAタイムズのエンタメの記事のページを何気なく見ていると、まあまあの大きさで、とある映画の宣伝広告が目に入ってきました。それは日本人の私にはとても馴染み深い、でかくて毛むくじゃらなキャラクターと二人の女の子が笑顔のアニメ作品でした。「あれ、俺、この映画見たことある。」と思ったその映画は今やジブリアニメの代表的な作品の一つとなっている「となりのトトロ」の映画の宣伝広告でした。「珍しいなぁ、日本の映画・アニメがアメリカの映画館にかかるなんて」と思いました。この作品は日本では1988年に公開されて大ヒットになった日本のアニメ映画で、私も公開された当時、日本の映画館で観た作品でした。私はジブリの作品としては「となりのトトロ」の一つ前に劇場公開された作品の「天空の城ラピュタ」が大好きだったので「となりのトトロ」も日本で公開されてすぐに劇場に鑑賞に行きました。
日本だと映画館に映画を供給する(かける)場合、松竹・東映・東宝・日活・GAGAといった映画の配給会社が劇場側と交渉して映画をかける訳ですが、この「となりのトトロ」をアメリカで配給するのはどの会社なのだろうと、もう一度、宣伝広告に目をやって配給会社の名前を探してみると「distributed by TOROMA」とありました。「えっ」と私は思いました。皆さん、この会社のことご存じですか?このTOROMAという会社ですが、80年代、90年代にB級、C級の洋画の「おバカ映画」をよく見ていたという方であれば「となりのトトロ」をアメリカで劇場配給したのが「TOROMAだったの?」と知って私同様に驚かれたのではないでしょうか。この「TOROMA」という会社の代表作品と言えば、何を隠そう、あの「悪魔の毒毒モンスター」です。
「エエエ、あのおバカ映画を製作した会社が、何故にアメリカにおける『となりのトトロ』の劇場配給を手掛けているの?へえええ~なんでなの? 映画の趣味趣向が180度違うでしょ、だってTOROMAだよ!」
新聞の宣伝広告の中にその会社名を見た時は、本当に驚きました。でもでもです。この会社の社長さんであるロイド・カウフマン氏は「悪魔の毒毒モンスター2」を日本で撮影して当時の関根勤さんも出演していたりして日本の情報を持っているアメリカの映画人であったことは確かです。まあイメージとしては「あのTOROMAが何故、トトロの上映を?」とはなりますが、私からすると「TOROMAさん、よくぞトトロを日本から持って来てくれて、アメリカの映画館で上映するという偉業を行ってくださいました。ただただ感謝するばかりです。」一人の日本人として、当時、純粋に心の底から本気でそう思っていました。
サンタモニカで「となりのトトロ」が上映するという事が分かってから、なんだか気持がそわそわしてきて、日本で観ているにも関わらず早くサンタモニカの映画館で「となりのトトロ」が観たいという気持ちが大きくて、かみさんにも「となりのトトロ観に行くぞ!」と誘ったのですが、彼女の返答は「私は日本で観たから行かな~い」という味もそっけもないものでした。
それならばと自分の都合の良き時にと一人でサンタモニカの劇場に向かいました。劇場につくとシネコン形式内の小さいサイズのスクリーンへ。場内の大きさですが、客席数は50席位だったでしょうか、客席は半分くらいは埋まっていました。日系人は4人家族が一組、シニアのご夫妻が一組、それに私で、あとは現地のアメリカ人で、アジア系の人たちよりも白人の方が多くて、だいたいが小学校、幼稚園に通われているお子さんのいるご家族で来場なさっていました。私の席の後ろの後ろに、お父さん、お母さん、お姉ちゃん(6歳位)、妹(4歳位)の四人家族が陣取っていました。
私はこの映画を日本ですでに観ているので、この時はその映画を観るというよりも、この作品を観ているアメリカ人の観客がこの作品にどういう反応を示すのか?その反応がとても気がかりでなりませんでした。自分はプロデューサーではないし、この作品の関係者でもないのに。アメリカ人は日本人と違って、やたらと画面に反応して歓声をあげたり、落胆する声が聞こえてくるので、この「トトロ」にどう反応するのかがとても楽しみだったのです。
さてさてさて、映画館の中が暗くなり始めて間もなく、この日とてもいい席に座ったなぁと思ったのは、後ろの後ろの女の子の二人の反応が直に伝わってきてとても面白かったからなのです。暗くなって最初の頃、姉妹はジュースを飲んだりポップコーンを食べたりしていて、映画の中身をほとんど気にしていない様子だったのですが、物語が進んでいくにつれて段々と映画の中身に気を向けだしました。彼女たちは物語が進行していくうちに観た事もない日本の森の中の風景とそこに登場してくる魔訶奇妙な生き物たちがかなり珍しいらしくママに「あれ何?」の質問を浴びせかけ出しました。そして彼女たちは画面を見ていて登場したキャラクターが可愛いと思ったら次の瞬間にはもう「Cute,キュート」という言葉を口から発しており、立て続けに可愛いキャラが登場してくると「 Cute,So Cute!」を連発してくるのです。他のお客さん達がどう思ったかは分かりませんが、私からするとその連呼する彼女たちの声が何んとも言えず可愛くて「あなた達の声の方がよっぽどキュートなんだけなぁ、実は!」と心の中で思いながら画面に目を向けていました。トトロという作品はジブリ作品の中でも独特の可愛い挿入歌がある作品なのですが、その曲が流れると、この姉妹は初めて見る作品の筈なのに、音楽に合わせてなぜか歌を歌っている、というよりも、音楽に合わせてハミングしながら二人して体をゆすっているのです。いやはや、何だかとてもメルヘンチックな気持ちになった映画鑑賞となりました。
映画が終わって後、観客たちはみんな一様に笑顔で映画館を出て行っていたので映画の出来そのものにとても満足してもらえたのだなぁと思えました。これだけ喜んでくれているのだから、もっと大きなスクリーンでやってほしい、いつかジブリ作品が、イヤ日本の作品がもっともっと大きな劇場で上映されて連日・連夜、アメリカの人たちに喜んでもらえる、そんな日が来ることを、その日私は願っていました。1993年の5月初旬のお話しです。
つづく
※次回はもう少しジブリのアニメ作品の事を書かせて頂きつつ、日本の別の作品について書かせて頂くつもりでおります!
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